【事例紹介】5G×MECで進化するサービスロボットのモーションプランニング

東京科学大学(遠藤玄教授)x大手通信会社の共同研究 紹介記事

事例紹介:5G×MECで進化するサービスロボットのモーションプランニング

~東京科学大学 × 大手通信会社の共同研究~

高齢化や人手不足が進む日本社会では、物流・介護・製造などの現場で、ロボットによる作業支援の需要が急速に高まっています。
特に、移動しながら物を掴んで運搬できる「モバイルマニピュレータ(移動可能なロボットアーム)」は、私たちの暮らしを支える次世代のサービスロボットとして注目されています。

しかし、この種のロボットが現場でスムーズに動作するためには、物体の把持や障害物回避などの複雑な動作をリアルタイムに計画・実行する必要があり、高い計算負荷と省電力性の両立という技術的な課題が生じます。

この課題に対して、東京科学大学と大手通信会社が共同で取り組んでいるのが、5G通信とMEC(Multi-access Edge Computing)を活用したモーションプランニングの外部処理です。


1. 技術的アプローチ:5G×MECによる外部モーションプランニング

本研究では、5Gの低レイテンシー(低遅延)通信と、MECサーバのエッジ処理能力を組み合わせ、ロボット外部のサーバでモーションプランニング(動作経路計算)を実行するシステムを提案しています。

期待される効果

  • 省電力・軽量化:ロボット本体に高負荷な演算処理を担う装置を搭載せずに済み、稼働時間を延ばせる
  • 高速応答:5Gの低レイテンシー通信により、センサーデータをリアルタイムに送受信し、外部サーバでの高速処理を実現
  • 屋外対応:Wi-Fiの電波制限の影響を受けにくく、屋外でも安定した動作が可能

2. ロボットの構成と搭載機器

本システムで使用されるモバイルマニピュレータの構成は以下の通りです。

ロボットの構成と搭載機器(全体イメージ)

図1.ロボットの構成と搭載機器(全体イメージ)

本システムで使用されるモバイルマニピュレータの構成は以下の通りです。

構成 内容
モバイルベース RhinoUS II(4輪差動駆動)
モータ:Maxon EC60FLAT(100W)+ Harmonic Drive CSD-20-100-2A-GR
モータドライバ:Maxon EPOS2 24/5
バッテリ:Lithi-B 24V / 40Ah
協働アーム xArm5 lite(自由度5、ペイロード3kg)
EZ Gripper(ペイロード最大5kg)
センサ Hokuyo UTM-30LX(2D LiDAR、30m、270°)
Intel RealSense D415(3Dカメラ、測定距離0.5〜3.0m)
制御PC NVIDIA Jetson Orin Nano(Ubuntu 22.04)

3. ソフトウェア構成と実装の工夫

システムの中核にはROS2 Humbleを採用し、モジュールごとに最新のOSSライブラリを組み合わせています。

  • 自律移動 / SLAM:SLAM Toolbox + Nav2
  • アーム動作計画:MoveIt 2 + MoveIt Task Constructor
  • 物体認識:ArUcoマーカを用いたRGBD画像処理

実装の工夫

  • URDF・launch・MoveIt設定などの各種ファイルを作成し、構成機器に最適化
  • 物体位置認識をROS2サービスとして実装し、必要タイミングで呼び出し可能に
  • 自律移動に必要なオドメトリ計算LiDAR位置の最適化を実施

4. 今後の展望

現時点で、Pick & Placeを含む主要動作のソフトウェアは完成しており、今後は5GネットワークとMECサーバを接続した実機検証が予定されています。

リアルタイム性と計算効率の両立を目指すこのアプローチは、次世代のサービスロボットにおける標準アーキテクチャとなる可能性を秘めています。今後は、屋外環境や複数台ロボット協調など、より実用的なシナリオへの展開が期待されます。

 


研究者紹介:

東京科学大学 工学院 機械系
遠藤 玄 教授の研究室の情報はこちら
https://www.robotics.mech.e.titech.ac.jp/gendo/


※本記事は以下の文献を参考にしています。
[1] K. Sakaguchi ほか, 「B5G/6Gにおけるエッジコンピューティングの役割と超スマート社会への展開」, 電子情報通信学会誌, vol.106-2, pp.129–135, 2023.
[2] 笹井遥貴ほか, 「5Gとエッジコンピューティング基盤を利活用したサービスロボットの開発」, 第25回日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス講演会(山形, 2025).